「ふらんす温泉」がなぜに江戸?と言われそうですが、実は今日徳川恒孝(つねなり)氏の「江戸時代の生活と文化」と題する講演会へ行って来たのです。講演者の徳川さんは徳川将軍家の18代当主なのだそうで、江戸時代についての興味深いお話をしてくださいました。
この講演会に行った動機は、なんとなく興味があったし無料だったから、という実に曖昧なものでした。講演は日本語で行われ、逐次通訳が付いていました。ですから、日本語で聞いたことを通訳のフランス語を聞いて確認しながらメモを取る時間もあり、時間はかかりましたが分かりやすい講演でした。
初めの方は、戦国時代のあと江戸幕府を立て、265年間鎖国していたこと、その間は平和で文化が発展したことなど、一般的な話で、昔学校の歴史の時間に習ったことの復習のような感じでした。日本史について知らないフランス人の聴衆もいたので、この部分はやはり必要だったと思います。そしてその後、どんどん面白くなっていきました。
その全てをここに記すことは難しいので、心に残ったことを書きたいと思います。
江戸幕府は水田の拡大とともにインフラストラクチャーを整え、大幅な減税を行ったそうで、戦国時代は収穫の7割を税として武士階級に納めていた農民は、農業生産高が増えたことで3割納めるだけになったそうです。初めて聞きました。それから武士階級は儒教を中心とした教育で識字率100%、他の階級でも識字率は男性で60-80%、女性では50-60%、というのは同時代の他国と比べて極めて高いはずです。文化度が高かったということですね。
さらに面白いと思ったのは、江戸時代を通して武士は少しずつ貧乏になって行き、他の階級は豊かになっていったという話です。生活に貧窮する武士がいたという話は聞いていましたが(映画「七人の侍」にも出てきますし。)全体的に貧乏になっていった、とは知りませんでした。経済が発展し他の階級は潤っていったのに、どうして武士階級だけ貧しくなっていったのでしょうか。このことを外国人に話すといつも信じてもらえず、武士階級が司法、行政、警察を担っており武力まであるのに富が集まらないのはおかしい、といつも指摘される、とのことでした。確かにそうですよね。徳川さんは武士の教育は道徳を基礎にしており、お金に直接手を触れることも避けるべきで計算も基礎教育には入っていなかったと話していました。儒教に基づいた教育を受けていた武士は、政治は道徳律によるもので利益に左右されてはならない、という考え方があったのだそうです。だから豊かな町民階級を行政に参加させようという案が出ても採用されなかったとのことです。
支配階級である侍はどんどん貧乏になって行き、他の階級は豊かになっていったのが江戸時代であるので、こういう状況では革命は起きない、革命を起こしたいのは武士の方だがモラルがあるのでそういうことはやらない、と徳川さん。農民一揆とかがあったんじゃなかったっけ?ということが頭をかすめましたが、まあそれはさておき、お話の中で江戸時代のことを現代に引き付けて考えている点に興味深いものを感じました。
徳川さんによると江戸時代中後半は経済成長が止まり、資源と人口のバランスが取れていて、これ以上成長できない限界点だったということです。2050年には地球の人口は90億に達するそうで、増えた人口を抱えて今までと同じペースで経済成長を続けていくのは無理、ということから、1700年代の日本と同じような状況と考えられる、つまり経済成長のない経済社会は日本がすでに経験したものだということです。徳川さんは言います。「現代では経済が成長しないとこの世の終わりみたいに考える人が多いが、どうしてそんなに成長が必要なんだろうか。」考え方を変えてみたらどうだろうか、ということなんです。江戸時代は経済的には停滞していたが、文化的には豊かで人々は花見、藤見、観劇、祭りと生活を楽しんでおり幸福だったそうです。元禄文化の世紀末的華やかさは昔学校で習ったように思いますが、こういう視点も面白いと思いました。
江戸時代というと封建制とか参勤交代とか、あまりいいイメージがなかったのですが、なんだかにわかに江戸時代のファンになってきた気がします。徳川さんのユーモアを交えたお話も面白く、江戸幕府って、日本って、すごいんだなー、と思った次第です。
講演の主催側から徳川さんの書いた本が紹介されていました。「江戸の遺伝子」という本です。読んでみたいと思っています。
この本の英訳のThe Edo Inheritance という本も出ています。
さてこの講演を聴いて「日本ってやっぱりすごい国かも。」と思ったわけですが、以前フランス人の高校生から日本の素晴らしさを指摘されたことを思い出しました。
一人めは日本語を勉強中だったフランス人女子高校生のPさん。日本語の勉強を始め、初歩の文法を学習しながらひらがな、カタカナ、漢字と勉強を続けていきますが、日本語を勉強してすぐ気がついたのは文字が複雑で難しく、漢字を少し覚えたぐらいでは日本語は読めない、ということでした。そして、日本には文盲が多いに違いないと思ったそうです。ところが調べてみると、日本の文盲率は1パーセント以下で、非常に驚いたそうです。そしてPさんははっきりとした口調で言いました。
「フランス語は日本語に比べたら読み書きがずっと簡単なのに、フランスには字が読めない人が多い。フランスの教育が悪いからでしょう。日本は教育が良いんだと思います。そして日本の生徒の方が真面目なのでしょう。」
「教育がいい。」と言うのにL'éducation est efficase.(効率がよい。)、「生徒が真面目だ」というのはLes élèves sont mieux disciplinés.という言い方をしていました。行儀が良くて統制がとれている、ということですね。こんな難しいものをマスターさせるなんてよほど良い方法で教え、生徒も優秀なのだろう、と考えたPさん。自分の経験を通して考えたことをこのように意見としてはっきり言えるのは立派ですよね。日本の教育だって問題あり、と思ったりしますが、このPさんの意見も一理あると思いました。
二人めはお父さんのお仕事の都合で東京に10年住んでいたというセネガル人のAくん。ご両親はセネガルに戻ったそうですが、東京ではフランス語の学校にいたので、フランスの高校に入るために単身でフランスに来ていたました。もう1年半ぐらい日本語をほとんど話していない、と言いながらも、Aくんはなかなかしっかりした日本語を話しました。Aくんは言いました。
「日本は素晴らしい国だと思います。資源が何もないし、戦争で大きな打撃を受けたのに、努力だけで経済的に世界のトップにいます。日本人が頭が良くて、努力する民族だからでしょう。日本人は本当に尊敬できると思います。」
Aくんは日本国籍を取りたいとまで考えたそうです。このAくんの日本賛辞を聞きながら、日本人は謙虚な民族で自分たちはまだまだダメだ、と常に思って努力し続けるところがあるけれど、たまにはすごい民族なんだ、と思ってもいいのかも、と思いました。
今回の徳川さんの講演には日本人の姿も多かったのですが、フランス人も多く、このような講演を通して日本への興味や理解が深まっていくのでしょう。またこのような催しがあったら時間を都合して出席したいと思っています。今日ものえを連れて行けばよかったと後で思いました。
Author:まゆの
フランスに住み始めて早17年。2003年からリヨンの郊外に住んでいます。フランス語に限らず語学や語学学習にはいつも関心を持っています。フランス生活についても、個人的な視点で書いていこうと思っています。家族はフランス人の夫プー、長女のえ(14歳)、長男チッチ(10歳)次女奈々(5歳)の5人、プラス2007年8月23日から飼い始めたうさぎのクッキー。
初めてコメントいたします。
>儒教に基づいた教育を受けていた武士は、政治は道徳律によるもので利益に左右されてはならない、という考え方があったのだそうです。
武士社会が儒教精神でなりたっていることは知っていましたが、政治は道徳によってなされるもので、利益に左右されてはならないという思想のもとに教育を受けていたとは知りませんでした。
今の一部の(多数の?)政治家に、爪のあかを煎じて飲んで頂きたいと思ったりもします(^^;)。