最近、趣味で中国語を始めたので中国の映画にも興味が出てきました。そしてDVDなどをネットで調べたりして出会ったのが、小さな中国のお針子という映画でした。映画の解説を読んで原作がフランス語の小説だと分かり、映画を見る前に原作を読んでみたい、と思いました。
映画作った中国人の監督Dai Sijieがフランス語で書いた小説で、原題はLa Balzac et la Petite Tailleuse chinoiseです。「バルザックと小さな中国のお針子」という意味ですが、奇妙な題名です。バルザックに興味がある人は中国のお針子には興味がないと思いますし、中国のお針子について読みたい人はバルザックには関心がないのではないでしょうか。つまりフランスの小説家バルザックと中国やお針子との関連が分からない、という不思議な題名です。映画を通して興味を惹かれなかったらまず手に取らなかったと思います。
近所の書店で探してみると簡単に見つかりました。私が買ったのはLa Bibliothèque Gallimardというシリーズに入っている版です。たまたまこの版が一番安かった、というのがこれを選んだ理由ですが、この版には作品の背景の解説や作品自体の分析が各章の終わりに入っています。
この小説はテレビの文化番組で識者が紹介して世に知られるようになったそうですが、今では高校のフランス語の授業のための推薦図書になっています。このシリーズは中高校生向けの授業で使うように編集されています。(フランスでは、小学校高学年から先生指定のペーパーバックを買い求め、フランス語の授業で作品全体を扱います。)
解説が邪魔だと言う方はFolioから出ている普通の版もあります。

この小説は文化大革命時代の中国が舞台で、著名な医師の息子であった作者は、ブルジョア出身の若者の再教育のためとされていた山間部の農村での労働に従事していました。親友の有名な歯科医の息子のLuoとともに田舎の農村に着くところから小説は始まります。私は中国の歴史についての知識が乏しいので、このような歴史的背景にも興味を感じましたし、現代の目から見ると類のない経験について書かれているわけで、再教育の若者の目から見た文化大革命、という視点からも興味深いものがありました。舞台、背景、設定の全てが珍しく、すぐ引き込まれました。時折ユーモアを交えた文体にも好感を持ちましたし、若い人たち(筆者、親友のLuo, la Petite Tailleuseという呼び名で呼ばれる仕立て屋の娘、再教育中のもう一人の若者Binoclard(「めがね」というあだ名))の人間関係や各々の性格も上手くかけていると思います。その他の登場人物についての描写も巧みです。
この小説は思想統制の中、外国語からの翻訳書は禁書となり、本そのものも生活から姿を消してしまっている中バルザックの小説とめぐり合う、という特殊な状況での文学の力、若者ゆえに文学から受ける影響などいろいろなテーマが盛り込まれています。フランス文学についてはバルザック以外の作品も登場し、書物に飢えた知識階級出身の若者がフランス文学の翻訳をむさぼり読む図は、フランス人が学校のフランス語の授業で扱いたくなるはずです。
ストーリーも巧みな構成で面白く、始めはちょっとした空き時間に少しずつ読み進んでいたのが、途中からわざわざ時間を作ってまとめて読むようになり、一気に読み終わりました。
これから各章末の分析を読んで、フランスの高校ではどのように分析するのか見てみたいと思います。
Author:まゆの
フランスに住み始めて早16年。フランス語に限らず語学や語学学習にはいつも関心を持っています。フランス生活についても、個人的な視点で書いていこうと思っています。家族はフランス人の夫プー、長女のえ(12歳)、長男チッチ(8歳)次女奈々(4歳)の5人、プラス2007年8月23日から飼い始めたうさぎのクッキー。
[C746] 面白そうな小説ですね。