フランスに来たばかりの頃、滞在許可証や社会保険のことで、いろいろと面倒な手続きがあり、慣れないお役所の窓口や聞いたことのない書類の名前などで苦労した経験があります。
いろいろな書類を提出させられ、しかも窓口の係員によって必要書類が違っており、前に足りないと言われた書類をそろえて持っていくと、別の人からそれは不必要で、他の書類が足りない、と言われたり、○○の書類の発行に△△が必要なので、△△を取りに役所に出向くと○○がないと発行できないと言われたり、というような目に何度か会いました。
しかし最近ではお役所の手続きも以前に比べると簡略化されてきているようですし、最悪だと言われていた公務員の態度も緩和しているのか親切な係員にも出会い、もう10年以上お役所で大変な目にあったことはありません。だからフランスに来た当時抱いた「フランス=公的手続きが複雑でやたらと書類が多い国」というイメージはすっかり拭い去られておりました。
でもフランスの手続きの悪夢は健在だったんです。先月、久々に経験しました。今、息子のチッチはイタリアに行っていますが、実は3月下旬ごろ、もう行けないかと心配していたことがあったんです。
チッチの学校のイタリア旅行の話はこのブログにも書いたように10月ぐらいから聞いていました。説明会で、身分証明書(ECですからパスポートは必須ではありません。)かパスポートが必要と聞きましたが、あまりにも当たり前なことなのであまり注意を払いませんでした。日本やスイスなど、チッチは国境を越えて外国に行ったことがありますから、パスポートは既に持っています。でもチッチのは日本のパスポートなので、フランスに住んでいるのだからフランスの身分証明書を作ったほうがいいな、とぼんやり思いました。
それから年が明け2月に入ったので、急に身分証明書のことを思い出し、出生証明書を市役所から取り寄せることになりました。身分証明書の申請に要るのです。以前は手紙を書いて頼まなければいけなかったので面倒でしたが、今はインターネットで市役所のサイトから専用フォームで申し込めます。便利な世の中になったものだ、と早速申し込みました。
ところが全然届きません。2月も後半に差し掛かったころ、出生地の市役所に電話で問い合わせました。すると「もうすぐ届きますよ。サイトで申し込んだのなら間違いありません。」と言われました。それでも心配だったのでもう一度サイトから申し込みました。3月に入っても何も届きません。でもこの時点では、「いざとなったら日本のパスポートがあるから。」と軽く考えていました。でもあまりに遅いのでさすがに電話をすると「もうそろそろ届くはずです。」との返事。「発行依頼は受け付けたのか、もう発送したのか、など調べてもらえますか。」と聞くと「そういうことは出来ない。」ということでした。「待つしかないのかー。」
担任の先生からパスポートのコピーの提出を求められたので日本のパスポートのコピーを提出。その後、原本を持ってくるように言われたので、持って行くと、先生が
Eh, c'est un passeport japonais? えー、日本のパスポート?
と慌てているんです。コピーを見た時にフランスのパスポートでないことに気がつかなかったとかで、外国のパスポートの子は手続きが要る、と言われ、ここから悪夢が始まりました。学校が作った書類にチッチの顔写真などをそろえ県庁の外国人課の窓口に行きました。知らなかったのですが、外国人の未成年が学校の集団で旅行するときは、県庁の発行する許可証が要るらしいのです。
窓口の係員が恐ろしく無愛想で態度が悪く、私が提出した書類を訝しげに眺めています。チッチの姓が夫の姓+私の姓になっており怪しまれたのだと思い、「実は二重国籍なのですが、フランスの身分証明書の発行が間に合いそうもないので、今回は日本人として行こうと思います。」と説明しました。すると
Il est pas Japonais. Il est Français. (日本人じゃない。フランス人だ)
と大声で叫んで私が提出した書類を破り捨てんばかりにして私に突き返して来ました。びっくりして日本のパスポートを出し、ここに日本人と書いてあるのにどういうことですか、フランス国籍の証明書はないんですよ、と私も声を荒げて口論になりそうになりました。ところが窓口のシャッターをぴしゃりと閉めて相手にしない、という態度に出ました。ここでこの人がきちんと説明してくれていれば、不愉快でもなく、時間のロスもなかったのに、と今でも思います。後で分かったのですが、この人は説明できる知識がなかったのでこういう攻撃的な態度に出たようです。
この日は学校に経緯を説明し、許可証はもらえなかったと報告しました。そのときに先生から「フランス国籍を持っていると絶対に言ってはいけなかったのに。」と言われたのですが、そんなことは聞いていなかったので知りませんでした。先生はこうなったらフランスのパスポートがない限りイタリアには連れて行けない、と言うので、このことであちこちに相談しました。
夫を県庁の外国人課に送り込み、この間の態度の悪い係員に交渉するようにもしました。(私は喧嘩になりそうだったので嫌われていると思って。)その人は夫にも態度が悪く話にならないので、夫が怒鳴り散らし、ついに上司が出てきたそうです。その上司の親切な説明によると、フランスの法律で「フランス国籍を持つ者は、たとえ他に外国籍を持っていても、いかなる場合も外国人扱いはしない。」と決まっているのだそうです。だからパスポートを申請するしかない、ということになりました。そしてパスポートならまだぎりぎりなんとかなる、と言われました。パスポートの申請には出生証明書が要ります。
そこで出生地の市役所にまた電話し、依頼した出生証明書のことを尋ねました。すると「ネットで依頼した場合、確認のメールが来る。」とこの時になって初めて言われました。そんなメール、一度も受け取っていません。ここで、またあちこちの係りを電話で回り、いろいろと頼み込んでファックスで申し込めることにしてもらいました。最初に手紙かインターネットでないと出来ない、と言っていたのを、しつこく頼んでOKさせ、早速ファックス。ネットの依頼が受け付けられていなかった、という経験から、今度は本当にファックスが届いたのか確認の電話も入れました。そして翌日さらに早く送ってください、と催促コール。なんと3日で届きました。それをもって市役所にパスポートを申し込みました。すると最低3週間、通常は4週間かかる、と言われました。チッチの出発の2週間半前ぐらいのことでした。
いろいろな人にパスポートのことで困っている、という話をすると、緊急で2日で発行してもらったことがあるとか、県庁の偉い人と知り合いで頼んだらすぐ出来た、とかいろいろな話を聞きました。出生証明だって交渉したら、2週間かかると言われていたのが3日になったのですから、パスポートだってどうにかなるのでは、と市役所で食い下がりました。ところが係りの人によると前は緊急発行が可能だったけど、今は市役所で受け付けて書類を県庁のパスポート課に送り、そこからフランス全土のパスポートを作っているところに送られて作られる、という方式になったので、緊急発行はできなくなった、と言うんです。このときはさすがに絶望的になりました。
しかし県庁の人がパスポートならまだ間に合う、と言ったのですから、もしかして道があるのかも、とまた県庁を訪ねました。パスポート課は自由に入れないのですが、待っていると係員が出てきました。事情を伝えると、パスポートは県庁で作らなくなったので絶対無理だけれども、Laisser-passer (通行証)なら間に合う、と言われました。そんな技があったのかー。それでまた市役所から申請することになったのですが、県庁曰く「出生証明が要る」、市役所曰く「出生証明は不要。」。どっちなのよー。しかも出生証明はパスポートの申請に提出してしまったので手元にありません。すると市役所の係員が「じゃあ、こちらから直接出生地の市役所に請求しましょう。」と言い出しました。そんな技があるんだー。そして証明写真を撮り直し(パスポートの申請に使っていてもうなかった。)本人出頭でフランス国籍を持つ親が身分証明書を持って申し込んだほうがいい、というのでアメリカから帰ってきた夫に市役所に行ってもらいました。(パスポートのときは父親はアメリカに行っていて留守、身分証明書も持って行きましたから家にはありません、で通し、私が申請しました。)
このLaisser-passer、市役所は10〜15日かかる、と言っていたんですよ。出発の12日ぐらい前のことでした。「でも県庁で8日で出来ると言われたんです。」と言うと「県庁が出来ると言うのなら出来るのでしょう。」とのんびりした態度でした。県庁に書類が送られたころに、また県庁に出向き、事情を説明して早くしてくれるように言うと、係りの人が調べてくれ、もう出来上がって市役所に送られた、と言われました。速ーい!県庁に書類が届いてから2日しか経っていません。県庁を出ると、すぐ市役所から携帯に電話があり、出来上がったから取りにくるように言われました。もちろん、急いで受け取りに行きました。
これでやっとチッチはイタリアに行けることになったのですが、そのすごく重要な旅行に不可欠の通行証というのは単なるA4の用紙に手書きでチッチの名前が書いてあり、顔写真がホッチキスで止めてあって用紙の下に知事のサインと県庁のはんこが押してある、という拍子抜けするぐらい簡単な紙なのでした。こんなものがそんなに重要だったんだー。
学校の先生に「パスポートではないけれども、その代わりとなる県庁発行の通行証をもらいましたから。」とそのA4の紙を渡しました。これはドイツかイタリアに陸路で行く15歳以下の子供が使えるという通行証で、旅行の期間が書き込んであるので一度しか使えません。無料で発行してもらえます。(パスポートも15歳未満は無料です。)これで晴れて行けることになったのですが、出発前に先生から「やっぱり日本のパスポートも持ってきて。」と言われ、日本のパスポートも持って行きました。じゃあ、この騒ぎはいったい何?
大体フランス−イタリア間はECなので税関もないですし、身分証明を見せることもないと思うので、大騒ぎして取得したあの通行証も使わないのではないか、と思ったりしています。
困っていることをいろいろ説明すると、今回出会った公務員の方々は県庁の外国人課の最悪な人以外は、みんな丁寧に対応してくれました。でも最初から知っていれば、説明してくれていれば、と思うことがいくつもあったのも事実ですけどね。出生地の市役所を含め、近所の市役所、県庁、果ては領事事務所までも、いろいろとお騒がせしました。無事に行けて楽しく過ごしているようですし、良かったです。
大変長い記事になってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございます。これでもはしょって短くしたんですけどね。
Author:まゆの
フランスに住み始めて早16年。フランス語に限らず語学や語学学習にはいつも関心を持っています。フランス生活についても、個人的な視点で書いていこうと思っています。家族はフランス人の夫プー、長女のえ(12歳)、長男チッチ(8歳)次女奈々(4歳)の5人、プラス2007年8月23日から飼い始めたうさぎのクッキー。
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